最高裁判所第一小法廷 昭和34年(あ)1582号 判決 1960年2月18日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人安西義明の上告趣意第一点について。
しかし、関税法一一八条において、犯罪に係る貨物を没収し、又は、これを没収することができない場合にその没収することができないものの犯罪が行われた時の価格に相当する金額を犯人から追徴する趣旨は、所論のごとく単に犯人が現実に取得した不正の利益だけを剥奪せんとするに過ぎないのではなく、むしろ、国家が関税法規に違反して輸入した貨物又はこれに代るべき価格を犯人連帯の責任において納付せしめ、もって、密輸入の取締を厳に励行せんとするに出たものと解すべきことは、すでに、当法廷の判例とするところであり(判例集一二巻三号五二七頁以下参照)、そして、国家がかかる取締の必要上同条二項の追徴規定を設けたのは、公共の福祉を維持するため当然であって、同条項が憲法二九条に違反するものでないことも、すでに、当裁判所大法廷判決(判例集一一巻一二号三一三二頁以下参照)の趣旨に徴し明らかである。また、同条の規定をもって、憲法三六条にいわゆる残虐な刑罰規定といえないことは、これまた、当裁判所大法廷判決(判例集二巻七号七七七頁以下、同巻一三号一七八三頁以下参照)の趣旨に照し疑を容れない。それ故、所論は、すべて採るを得ない。
同第二点について。
所論は、違憲をいう点もあるが、実質は、単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、原判決の維持した第一審判決の認定した本件犯罪事実は、被告人が関税を逋脱した貨物であることの情を知りながら判示ウイスキー等を買い受けたという単独犯罪であって、所論のごとき縦の共犯関係事実ではない。されば、所論は、原判決の判示に副わない事実関係を前提とするものであって、刑訴四一一条一号の法令違反の主張としても採るを得ない。
よって、刑訴四〇八条に従い、裁判官の全員一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)